『ねえ、姫様。大丈夫です。
目が覚めたら、怖い事は全て終わっていますよ。
俺があなたを守ります、だから―――ー』

薄れゆく意識の遠くで声が聞こえた気がした。
優しいあれは、誰だったのだろう…
色と音を失った私にとっては、最早淡い夢のような微かな記憶。
ああ、あの声が今私を抱いている人のものだったらいいのに。

私を抱きしめている腕に指を這わせる。
腕から肩へ、肩から首へ、そして…柔らかい口唇へと滑らせる。
撫でた頬は冷たく濡れている。泣いているの？
私に向かって何かを言ってくれているのかもしれない。
けれど、此の耳はもうあなたの声を拾ってはくれない。
手を取られて丁寧に舐められる。
指に触れる熱い息が、私の躰の奥にも熱を灯らせてゆく。
あなたが見ている私は、どんな貌をしているのかしら。
曇った硝子玉のような瞳で、あなたを見つめているのかしら。

奥を貫かれて私は歓喜に震える。
泣き出したいような気持ちに襲われて、彼を抱き返した。
さらに力が込められる。辺りを包む甘い香りが一段と強くなる。
私と同じ、花の体臭。

ねえ、私の気持ちは伝わっているのかしら。
倖せなの―――とても。
 

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